本研究は、単年度の研究助成の一環として供与され、研究の規模や助成金も縮小されたものであったが、研究代表者の従来からの研究の蓄積などもあって、現実の成果としては、以下に述べるように、かなり大きな業績を上げることができたし、日本のみならず、米国、台湾、中国など、国際的な意味でも学術的貢献を成しうることができたと自負している。 1.本研究では、計画調書で予定していたように、1986年から92年にいたる台湾の政治と外交の展開を、台湾の新聞や李登輝総統を始めとする台湾要人との単独インタビューといった第一次資料を駆使して詳細に書き上げた単著(『台湾経験と冷戦後のアジア』、頚草書房)を出版した。同書は、台湾の権威主義体制から民主主義体制への平和的移行(すなわち「平和的民主化」と、国交なき台湾がその経済力を背景にして展開する多角的な「現実外交」によるインフォーマルな相互依存のネットワーク形成を、世界史に刻み込むべき「台湾経験」の重要な成果として発見、評価し、日本の台湾、中国、アジアの国際関係と比較政治の分野に存在した学術的真空を埋める貢献を成したといえる。 2.また、同書の内容は、一部が英文の論文として発表され、同書は現在、台湾でも中国語に全訳、出版される予定であり、国際的な意味においても、重要な学術的貢献を成すに至ったといえよう。 3.さらに、本研究の代表者は、上記の単著以外にも、その後の台湾政治外交を分析したいくつかの論文を発表し、こうした研究の成果を日本の新聞各紙でのコラム、インタビューなどにも発表し、日本の論壇、マスコミでの啓蒙的仕事としても発表してきた(『朝日新聞』『読売新聞』『産経新聞』など)。 4.台湾の民主化と政治発展にかんする本研究は今後、当初の計画調書でも述べておいたように、アジアの国際関係のなかでの中台関係、日本・韓国などの東アジア諸国との比較政治研究などといった、より大きなフレームワークのなかでの重要な研究テーマとして発展することが可能であり、将来的にもより一層の研究の拡大・深化が望まれることになったといえよう。
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