本研究の目的は次の2つである。第1に、1970年代から次第に明かになってきた制度と組織への問題関心の高まりに注目し、80年代後半におけるヨーロッパ制度主義の成立ととも提唱された[現代制度主義経済学」とは何かを明かにすることである。第2は、現代制度主義の理論的検討から得られた諸含意を、各国ごとに制度的配置の異なる各国分析、特に第2次大戦後の日本経済の分析に応用する作業を試みることにある。 1.第1の課題は、O・ウィリアムソンに代表される新制度派経済学によって切り拓かれた新たな理論的地平、とりわけ、その企業組織分析を検討の素材にして、現代制度派経済学との対質を示すことを試みた。発表予定の3つの論文によって析出した論点は次の通りである。(1)1970年代からの現代経済学の様々な試行錯誤の中で、新古典派理論(新古典派合理的行動モデル)の精緻化が極限にまで押し進められ、それが一応の完成に到達したことが、逆に<制度の経済学>への新たな関心を生み出すことになった。(2)新制度派の取引費用の理論は、<制度の経済学>への大きな一歩であり、その意義は高く評価されねばならない。だが、それが市場と組織の合理的選択の理論である限り、新古典派の最大化行動仮説からの完全な脱却を果してはいない。(3)それ故、<制度の経済学>が真に担うべき課題は、最大化原理の背景にある方法的個人主義と無制限合理主義に代わる認識論の革新と新しい行動理論の構築に置かれねばならない。 2.第1の<制度の経済学>的視角の戦後日本経済分析への具体的応用については、既発表、発表予定の2つの論文で試論を展開した。ここでは、ミクロ的諸主体の行動を規制・誘導する「企業主義的レギュラシオン」という新たな概念を提起し、それが日本経済全体のマクロ経済動態にどのように結び付いているのかを明かにした。
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