本年度は、課題に即した研究の第1段階として、朝鮮支配が日本経済に与えたインパクトについて重点的に分析した。すなわち第1に貿易、第2に資本移動、第3に労働移動、第4に財政移転をとりあげ、それぞれが日本経済にたいし及ぼした影響を数量的に検証した。このうちもっとも重要であったのは原料供給、なかんずく米供給基地としての朝鮮の役割である。米の輸入は米価を引下げ農民に大きな打撃を与えた。他方それは労働者の実質所得を高めた。これは賃金が米価に連動していなかったという統計的分析結果から確認することができた。この点は従来の研究では示されていなかった。他の要因については、朝鮮支配の影響はとるに足らなかった。輸出市場資本市場としての朝鮮は限界的な位置を占めていたにすぎない。移民についても同じである。財政移転はプラス(日本からネットの流出)であったが、その額は全財政支出に比してごく小さかった。 以上の結果は日本帝国主義論に大きな意味をもつ。すなわち日本の朝鮮支配は、政治的パワーを有していた産業資本家の利益と結びついていなかった。逆にもっとも政治的パワーの小さかった労働者の利益と結びついていた。これは、経済的帝国主義論-とくにホブソン・レーニンの理論が日本の場合には妥当しないことを意味する。結局日本帝国主義を説明するには非経済的要因がより重要であることが明らかである。
|