日本経済は、1991年以降深刻な不況に落ち込んできたが、その特徴の一つとして土地と株式などの資産価格の大幅な下落と多くの金融機関の経済破綻が指摘されてきた。こうした金融システムの不安定化は、実物経済の落ち込みをさらに深刻化した。銀行経営の破綻や金融システムの不安定性が問題になり、マクロ経済に大きな打撃を与えた例は、歴史的にみてもまた世界的にみても少なくはない。1930年から33年のアメリカにおける3回の銀行恐慌は、長期にわたる大恐慌の原因となった。また1980年代においても多数の金融仲介機関が経営危機に陥り倒産した。特に貯蓄貸付組合(S&L)の破綻はその預金保険制度をも崩壊させた。日本においても、明治維新以来の銀行制度の確立過程で銀行取り付けや倒産は何度となく経験し、1927年には昭和金融恐慌におそわれ、その後大きな銀行制度の変革が行われた。 本研究は、こうした金融・銀行システムの安定性および効率性に関して理論的かつ歴史的・実証的分析を行うことであった。またこうした金融システムの(不)安定性がマクロ経済変動に対してどのような影響を及ぼすかを検討することである。研究成果としていくつかの重要な結果をえることができた。いくつかを次に要約する。 1.昭和金融期における銀行休業の原因は、一般的な信用不安によるのではなく、危険分散の失敗など経営に問題があったことを実証的な分析から導いた。 2.不完全情報下での金融市場では、競争的市場均衡は必ずしもユニークでなく、また効率的でないかもしれないということを理論的に論じた。 3.マクロ経済変動においは、銀行のデフレ効果に対する反応が重要な役割を果すことをシュミレーション等で示した。
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