1.欧州統合の深化と拡大の状況について。1990年代の欧州統合の路線を定め、「欧州連合」創設の新段階を示した欧州連合条約は、1993年11月1日、ようやく発効した。デンマークおよび英国による批准手続きが大幅に遅れ、ドイツ連邦裁判所による合憲判決が93年10月12日に下ったからである。同条約は欧州統合の深化という点では大きな意味をもつ。経済通貨統合および政治統合の実現による「欧州連合」の創設を謳っているからである。しかし、現下の欧州は、経済の長期低迷、失業者の増大、高福祉政策の破綻、中・東欧からの大量移民などの厄介な問題を抱え、これらが欧州統合の行く手を大きく阻んでいる。一方、ECとEFTA5カ国とによるEEA(欧州経済領域)は、計画より1年遅れて94年1月1日に発足した。オーストリア、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーのEC加盟国交渉も最終段階に入り、大筋合意を得た。さらに中・東欧諸国との経済通商協力協定、連合協定の締結も進んでおり、欧州統合の拡大は前進しつつある。 2.新段階の欧州統合への日本欧企業の対応について。上述したように、欧州連合条約は発効後間もないばかりか、現下の欧州が厳しい状況下にあって、経済通貨統合の実現よりも雇用問題の解決が欧州にとっては最大の問題となっている。欧州企業の多くは、自らの事業の再構築を余儀なくされており、新段階の欧州統合へ対応する手立てを考える余裕はないのが現実である。米国系欧州企業も、欧州企業と同様の状況に置かれているとみてよい。一方、日本企業は、EC市場統合に的を絞って欧州進出を企ててきた。その進出動機は、米国進出の場合と同様.貿易摩擦の回避を主としていたので、赤字経営が多く、その収益率は、目下の欧州不況下にあって、いっそう低くなっている。こうした事情から、日米欧企業のいずれも、新段階の欧州統合がどうなるのかを静観しているのが現状だとみられる。どう対応するかを考えるのはまだ早すぎる、その時はまだ来ていないのである。 3.別添の論文2篇について。2本の論文は、とくに日本企業に的を絞って、日本企業の欧州進出状況を北米やアジアの進出状況と対比しながら、実証的に展開したものである。
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