研究概要 |
新規公開株式の公開価格は,これまでの統計的な計測からも日常的な経験からも高い収益率をもたらすと考えられている.この高収益率をもたらす原因をめぐって近年は,多くの理論モデルが考案されてきた.しかしながらそれらモデルの妥当性は,現実のデータをもとにして判断するほかなく実証的な研究は意義深いものになる. 本研究は,1970年から1990年の期間に東京証券取引所に初めて公開された新規公開企業の,データを対象にしていくつかの観点から,公開価格の問題を分析したものである.公開価格の平均的な投資収益率は40%を超えており,同時期の市場全体の平均的な投資収益率1%程度に比べれば著しく高い収益率を記録した.これはどのような要因からもたらされるのかを次に検討してみた.市場からもたらされる要因とファンダメンタルズにもとづく要因とに分けて検証してみた.その中で最終的に有意であった変数は,一株当り株主資本,一株当り当期利益およびラグをもった公開価格収益率の平均値であった.ただし,前の二つは公開企業とその公開企業が所属する産業の平均値との差から計算された値である. 次に,新規公開企業の公開後の価格は,公開時と同じように著しく高い状態を保持したまま推移していくのかという点を検討した.データを検討してみると名目的には公開後36ケ月間株価は上昇を続けていた.しかし別の基準で測定した場合には公開後も上昇し続けるとはいいがたいことが分かった.逆に収益が低下する傾向があることが観察された.その基準は,時価で評価したとき同規模の資本価値をもつ企業を選択して投資した場合の収益率と比較するというものであった.この収益低下の要因に関する仮説として,公開価格収益率が異常に高い企業について,公開後市場で調整されているためではないかという点を指摘できた.
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