未履行契約やデリバティブ取引等の新しい企業取引がいわゆるオフ・バランス項目となることから、会計はその認識・測定の拡張を求められるようになった。本研究は、すでにある会計の認識・測定構造を前提としたうえで、当該認識・測定の拡張の可能性を、取引概念の拡張という観点から、理論分析的に検討したものである。 すでにある会計の認識・測定構造は、(1)いわゆる「取引」によって認識・測定対象が規定されること(取引アプローチ)、(2)現金および現金等価物の収入・支出という経済事象を「取引」として認識し、これを名目貨幣価値によって記録・計算すること(名目貨幣計算指向)、(3)以上の認識・測定操作が会計人の自由裁量を拘束していること(ふちどられた自由裁量性)によって特徴づけられる。 そして、かかる認識・測定操作は、複式簿記システムのもとでは、現金収支の価格総計の記録・計算・区分・集計のプロセスとして展開されるのであって、そこでは、現金収支の原因事象(財・用役のフロー)は、現金収支の価格総計の区分の規準としてのみ当該プロセスにかかわっている。 他方、オフ・バランス項目の認識・測定は未来事象の認識・測定を不可欠とするが、現行実務(すなわち取得原価主義会計実務)もある種の未来事象を独自の方法によって認識・測定している。その認識・測定を導いているのは、未来に関する企業経営者の期待である。ただし、その期待は、外部利害関係者にも容認されうる合理的期待である。なお、そこで認識される未来事象は、現金収支(価格総計)の金額が確定しているものに限定される。 以上から、取引概念を拡張し、オフ・バランス項目をオンバランス化するためには、現金(ないし現金等価物)概念の拡張が必要となることが理解される。しかし、かかる拡張は、他方で、すでにある会計が保持している積極的諸特徴(認識・測定の安定性、長期的利潤平準化にもとづく利害関係の調整機能など)の後退を不可避的にもたらすことにも留意しておかねばならない。
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