研究概要 |
本研究は,監査判断形成の理論的な枠組の解明と判断形成モデルの構築,および当該判断形成モデルにもとづいて,現実の監査判断の形成プロセスを実証的に確認すること,以上2つの課題を研究目的としていた。 前者の研究目的については,監査判断形成の理論的な構造モデルを構築し,現代の財務諸表監査の基本的アプローチであるリスク指向監査における判断形成のあり方を提示した。後者の研究目的については,アンケート調査の結果,質問票の回収率が低く,検証に資するデータ数に達していないため,この調査を補充するものとして,諸外国の監査規範の詳細な分析により抽出した監査判断の指標と,最新の監査報告書の事例から帰納し,推測した監査判断の規準を用いて,当該モデルの有効性について検討を行った。これにより,具体的な監査判断を例示的に示すことができ,一層説得力のある判断形成プロセスの解明に至ったということができる。なお,質問票の回収については再度回答依頼の連絡を行い,当初の検証を完遂する計画である。 新たに得られた知見としては、監査判断がさまざまな監査の局面において異なった形態で現れるため、心証形成上これらを区別して扱うべきこと、また、心証形成プロセスにおいては、判断は三段論法による推論過程を経て形成され、証拠の収集は、小前提の収集過程に対応し、要証命題はそれらの小前提からの帰納的な推論によって証明されていくこと、および、監査意見の形成は、要証命題の統合化のプロセスであり、ベイズの定理の応用によって客観化の可能性が十分認められることなど、これまで未解明であった点が具体的な監査判断に照らして解明されたことをあげることができる。さらに,ゴ-イング・コンサーン監査のあり方について,監査機能の再検討にもとづく独自のパースペクティブを提示しえた点も,重要な成果の一つである。
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