研究概要 |
本研究の目的は、数理生態学における最も重要で基本的な課題である、生態系を構成する生物種が死滅したり、その個体数が爆発したりしないことを保証している系の構造を明らかにするため微分方程式系で記述される数理生態モデルを用いて解析することであった。従来の平衡点に注目した安定性概念ではなく、最近提案されたパーシステンスという概念を用いた。 本研究は、生態系のパッチ構造と時間遅れが数理生態モデルのパーシステンスと大域安定性にどのように関連しているのかを考察するとともに、そのような構造を導入しないモデルの大域的安定性を解析した。 1.系のパッチ構造とパーシステンス・大域的安定性:生物種が1種の場合(論文1),生物種が2種で捕食者-被食者系(論文2),競争系(論文3,4)について,パッチ構造と系のパーシステンス・大域的安定性の関連が解析された。一般に全てのパッチ内ダイナミクスが大域的に安定であっても、生物種がパッチ間を拡散移動することにより系の安定性が失われるが、系全体がパーシステンスを保存するための条件を求めた。 2.時間遅れとパーシステンス・大域的安定性:2種の競争種が大域的に安定な共存状態を有するとき、種内・種間関係に時間遅れを導入した影響を考察し、安定性は失われるが系のパーシステンスは保存されることを明らかにした(論文7)。また、ある生物種とその栄養塩の関係を表すケモスタットモデルに、生物の栄養塩へのリサイクルと生物の成長に時間遅れの影響を導入し、モデルの大域的安定性を解析した(論文5、6)。 3.パッチ構造を持たない系の大域的安定性:系を構成する生物の種間関係を表す行列が定性的に安定であるならば、系は大域的安定性であることを示すとともに、そのような系の構造を明らかにした(論文8、9、10)。
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