強い相互作用を記述する理論として量子色力学が確立され、その非摂動論的研究を行うため格子量子色力学が現れてから、我々のハドロンに対する理解は着実に深まっている。特に弦定数、ハドロンの質量等については大きな成果が得られている。しかし現象論的に最も重要なのはハドロンの行列要素の計算であり、弱い相互作用の有効ハミルトニアンの期待値や、レプトニック及びセミレプトニック崩壊の形状因子等、計算すべき物理量は非常に多い。現在高エネルギー物理学研究所では、Bファクトリー計画が進行中であり、実験結果から小林、益川行列を決めるにはB中間子を含むハドロン行列要素の理論的計算が不可欠である。我々の目的は、ハドロンの行列要素の計算を、動的クォークの効果をとり入れて行うことにある。格子量子色力学では、4次元時空は格子上に離散化されており、クォークやグル-オン場の自由度は有限であり非摂動論的な数値計算が可能である。我々は、大規模モンテカルロ数値シミュレーションを高エネルギー物理学研究所のスーパーコンピューター上で行い研究を進めてきた。理論を格子上に離散化する事によって生じる誤差を系統的に評価しつつ、現象論的に重要なπ、K、B中間子の崩壊定数やK中間子のBパラメーターの値を決定した。また多体相関関数の一般的計算法を世界に先駆けて確立し、これによりハドロン散乱長、エータ中間子の質量、π-Nσ項、プロトン内でのクォークの担うスピン等の計算を行った。
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