研究概要 |
代表的層状物質であるグラファイト中の炭素を,一部ホウ素や窒素で置換したBC_3とBC_2Nの電子状態を,局所密度汎関数理論に基づく数値基底LCAO法により,第一原理セルフコンシステントなバンド計算を実行して求めた。また炭素をホウ素と窒素で置換した効果を定量的に調べるために,原子間の電荷移動量の評価を行った。 バンド構造については,価電子バンドはσ及びπバンドから構成されており,グラファイトの場合から素直に理解できるものであったが,既に公表されているカルフォルニア大学グループの結果(πバンドがフェルミ準位より高いエネルギーをとる)とは定性的に異なっていた。この違いは現在のところ完全には解明できていないが,計算手法の違いに帰着せざるを得ないものと考えている。 他の重要な成果としては,炭素とホウ素及び窒素間の電荷移動が,本質的にこれら元素の電気陰性度(或いは原子エネルギー準位の値)の差で定まることを確認した点である。BC_3とBC_2Nにおいては,ホウ素はB^+に,窒素はN^-に近いイオン状態になっており,グラファイト状物質に特徴的なSp_2混成軌道ネットワークの形成と,イオン性結晶の性格とが混在しているという独特の結合状態であることが見出された。グラファイトと類似の構造をとるにもかかわらず,BC_3とBC_2Nとがグラファイトとは異なるボンド状態をもつことは,これらの物性がグラファイトと大きく異なる可能性がある。将来の光電子分光やSTMの実験との比較を念頭において,電子分布や局所状態密度も計算した。これらの結果は次年度に公表予定である。 また,研究課題と密接に関連するフラーレンやホウ素と窒素で置換したクラスターの電子状態とボンド状態の研究も並行して行った。公表成果の一部はこれらに関するものである。
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