研究概要 |
平成2年度の本補助金によって設置した高真空蒸着装置を用いてKI薄膜結晶の育成が可能となった。本研究ではこれら薄膜結晶の成長過程のその場合観測を行った。まず,10Kの低温にてHIガスをKCl単結晶基板上に蒸着した後,基板温度を上昇させ吸収スペクトルをモニターしながらその変化の様子を調べた。その結果,180〜220Kの温度領域で,基板結晶上に数10Å〜数100Å程度のKI薄膜結晶が育成できることが分かった。以上のことより,我々は本薄膜結晶育成法を「反応エピタキシ-法」と命名した。薄膜結晶の膜厚は,HIガスの蒸着量により数10Å〜数100Åまでコントロールすることが可能であることも分かった。得られた薄膜結晶の結晶性を評価すべく,吸収スペクトル,発光スペクトルおよび観測された発光帯の励起スペクトルを10Kの低温にて測定した。以上の結果をMBE法によって作製されたKCl/KI超格子の結果と比較することにより,得られたKI薄膜結晶の格子歪みは極めて小さく良質の結晶であることが分かった。 現在,他の物質系についても反応エピタキシ-成長が可能な最適条件,すなわち,基板と蒸着物質間の整合性,成長速度の速さ,基板温度等について実験を行っており,これらについては今後の課題である。また,SEM,X線,ラマン散乱法等などによる評価のためには一度空気中に取り出さなければならず,この点も今後の工夫が必要である。 本研究により,上に述べた簡便な方法によって大きなバンドキャップを有する絶縁体イオン結晶のエピタキシャル成長が可能であることが明らかになった。その意味で本研究は結晶成長の分野に重要な一石を投じたものと考える。これらの研究成果については近い将来論文として投稿の予定である。
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