研究概要 |
BEDT-TTF(ET)分子からなる二次元伝導層は,多くの有機超伝導体を与えることで有名である。本研究では,この伝導層のキャリア数を系統的に制御できる可能性を有する電荷移動錯体ET-TCNQを対象に金属絶縁体転移と絶縁体相の電子状態の解明を行い,以下の成果を得た。 1.温度-圧力平面での電子相図の作成(電気抵抗測定) 常圧で330Kに見られる金属絶縁体転移温度は12kbarの圧力を印加することにより約40Kまで降下した。しかしそれ以上の圧力を印加しても,転移温度は減少しなかった。電気抵抗の異方性が小さいため,伝導は主にET層によって担われている。すなわち,電子相図はET層に対応するものである。 2.絶縁体相がモット絶縁体であることを見いだした。 帯磁率,ESRの測定により,常圧での絶縁体相がモット絶縁体であることが明らかになった。TCNQ鎖はキュリー的な,また,ET層は温度依存性の弱い磁化率を示す。 3.TCNQ鎖の反強磁性秩序化の発見 T_c=3KでTCNQ一次元鎖が反強磁性に秩序化することを見いだした。従来,TCNQ鎖の低温基底状態はCDWやスピンパイエルス相などの非磁性相しか知られていなかった。TCNQの反強磁性転移の発見は本研究が初めてである。これは,二次元ET層を介した三次元的磁気的相互作用が比較的強いためと解釈されている。ET層の秩序化は明らかになっていないが,ESRの線幅がT〜35Kで急に広くなることから,この温度で反強磁性転移を示したと考えられる。
|