研究概要 |
本研究は,超流動^3Heが強磁場下で示すA-B転移について調べ,磁場によって変形されたB相の構造を明らかにすることを目的としておこなった. まず,A-B転移の1次転移の相境界線について,従来取り入れられていなかったLandauパラメータF^a_2の効果を調べ,F^a_2の値によって相境界線が大きく変化することを見いだした.このことは,相転移の観測から,今まで確定していなかったF^a_2の値を決定することができることを意味する.また,F^a_2の存在によって,Fermi面上に磁場と垂直方向のd-波的なスピン分極が生じているという興味深い結果が得られた.これらの結果は,第20回低温物理学国際会議のProceedingsに公表される予定である.次に,A-B転移近くで大きく変形したB相の構造を調べるために,超音波吸収の計算を行った.これは,磁場を摂動的に扱わない最初の理論である.この結果,実験で報告されていて説明のなかった吸収のピークが,磁場の存在下で初めて音波と結合するJ=1,J_z=0の集団モードによることを明らかにするとともに,準粒子の対生成に伴う連続吸収帯の構造,特異点を調べ,超音波の実験によって,B-相での内部磁場,エネルギーギャップを直接観測する事が可能であることを示した.結果の一部は,第20回低温物理学国際会議のProceedingsに公表される予定であり,詳細はProg.Theor.Phys.に投稿中である.A-B境界の近くに,Fulde-Ferrell相が存在する可能性を調べたが,現在の所は,否定的である.しかし,この研究の副産物として,Fulde-Ferrell状態においては,1重項-3重項の混合クーパー対が生じやすいことが明らかになり,このことが,重い電子系の超伝導体UPd_2Al_3で報告されている高温域でのFulde-Ferrell状態を説明できるのではないかと考えている.関連する問題として,磁場下における超伝導薄膜の相転移を調べ,結果はJ.Phys.Soc.Jpnに公表される予定である.
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