研究概要 |
層状ペロブスカイト型構造のLa_<2-χ>M_χCuO_4(M=Ba,Sr,Ca等)では,強い電子相関のため電子の状態密度に電荷移動型ギャップができ,キャリアはこのギャップ内の新しい状態「インギャップ状態」に導入されて,電気伝導および超伝導を担っている。この物質系では種々の構造相転移がみられるが,その多くがキャリア濃度と密接に依存しており,このような強相関電子系における電子-格子相互作用に基づく構造相転移の特質を明らかにするのが本研究の目的である。 今年度に新たに得られた成果の第一は,特定の結晶軸方向に圧力を加えて試料を冷却することで,研究対象の中心である斜方晶構造相で双晶境界のない単分域試料が得られるようになったことである。これにより,層状の銅-酸素面に平行と垂直方向の間での物理量の異方性を調べるという当初計画に加えて,面内での異方性,すなわち銅-酸素面のつくる波状構造の方向性が構造相転移,電気伝導性,超伝導性にどのように関わっているかを明らかにできるようになった。そこで今年度の研究ではまず,キャパシタンス法による熱膨張率測定に加えて,特定の結晶軸方向に圧力を加えてのX線回折実験と歪みゲージ法による熱膨張率測定も併用して行い,いかなる条件・方法で単結晶試料の単分域化が起こるのかを詳しく調べあげた。こうして得られた単分域試料について,正方晶-斜方晶の構造相転移に伴う熱膨張率の変化を比熱の測定結果と比較することにより,構造相転移温度の各結晶軸ごとの圧力依存性と構造揺らぎの異方性を初めて明らかにした。現在は我々の研究室で育成できるようになったLa_<2-χ>Sr_χCuO_4の大型単結晶を用いてキャリア濃度依存性を調べる実験が進行中である。 また様々な元素置換を行うことにより,低温正方晶相の存在自体は超伝導性を妨げないが,銅あたりのキャリア濃度が1/8のときは電子系の不安定性による超伝導の抑制が起こり,そこでは低温正方晶相の存在によって超伝導の抑制が著しくなることが明らかになり,パイエルス的機構による説明が有効であることが判った。
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