研究概要 |
ハルデン系での基底状態や一次元鎖端の振る舞いを調べるため,純粋系あるいはCuドープしたTMNINについて研究を行った。IK以下からの低温域から測定できる比熱,帯磁率測定システムをほぼ完成し,それによる測定とESR測定の結果と合わせ,ハルデン系での有限鎖効果によりVBSモデルで予想されている鎖端のスピン1/2の出現やその励起状態を明らかにした。 利根川と鏑木はS=1ハルデン系おけるS=1/2不純物効果について,一次元鎖の全スピンを考慮した基底状態および他の二つの励起エネルギーの数値的解析を行い,エネルギー準位間のJ'依存を理論的に求めている。その結果を今回測定したCuドープ系のTMNINの低温比熱に適用すると,T<1Kにおける比熱のCuドープによる増加分からJ'=0.43Kと見積もることができる。このJ'とTMNINのNiおよびCuのg値を用いた磁場中のエネルギー準位は,異方性 エネルギーが無視できる場合(D=0)簡単に計算できる。Cuドープ系のTMNINのギャップ温度以下でのESR測定は,共鳴磁場が2.8kOeの大きなシグナルと3.2kOe付近の鋭いシグナルの他に5.5kOe,7.4kOe近傍にも小さいが純粋系のTMNINでは見られなかったシグナルが観測された。ESR測定周波数f=8.949GHzに対応するエネルギー準位差(許容遷移)を求めると測定された4つのESRシグナルによく一致することが明らかになった。これはCuドープのNENPでのESRで見つかったものと同様にCuのS=1/2とその両端の相互作用J'で結合しているNiのS=1/2スピン系による効果と考えられる。この不純物効果はハルデン系の基底状態が「valence-bond-solidモデルに類似した量子スピン液体」状態であるという理論の確証になるものといえる。
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