研究概要 |
外見は硬いガラスでありながら食塩水並みのイオン伝導度を持つ,いわゆる超イオン導電体ガラスが発見されて20年近くになる。この物質の発見後まもなく,伝導度の組成依存性を説明するために,ミクロな不均一構造の存在とその中でのパーコレーション問題の重要性が指摘された。その後,伝導度の周波数依存性をはじめとする中間時間スケール(ns〜ms)でのイオンダイナミクスからもこの問題の重要性は繰り返し指摘されてきた。しかし,パーコレーション理論から第一に予言される超イオン導電体・絶縁体転移,すなわちパーコレーション限界の存在がどうしても確認できず,また,パーコレーション経路に対応する不均一構造(この分野ではクラスター構造と呼ばれる)の存在が明確には証明できないために,この仮説は今日まで実証されずに残っていた。 本研究の開始前に,報告者らは有機イオンを導入した新しいタイプの超イオン導電体ガラスを発見し,その伝導度が従来の超イオン導電体ガラスとは異なる組成依存性を持つ事に気づいた。そこで,この系がパーコレーション転移を示す典型的なモデル系であることを実証することを目的として本研究を企画した。 本研究では,主としてヨウ化銀と有機アンモニウム塩からなるガラスを対象に超イオン導電体・絶縁体転移を確認し,パーコレーション臨界組成を決定した。この系について,幾つかの組成で電気伝導度・誘電率の周波数依存性,中性子準弾性・非弾性散乱,中性子小角散乱の実験を行った。更に,銀カルコゲナイドとリン酸銀からなるガラスの電気的性質を測定し,超イオン導電体から電子伝導体へと転移することを見い出した。これら二つの例は,超イオン導電体ガラスの研究に於いてパーコレーション問題が決定的に重要な事を示す典型的な例と言える。
|