樹枝状結晶の成長形態は非線形・非平衡現象に基づくものであり、特に拡散場の造る形態形成の代表例である。塩化アンモニウム水溶液から成長する4回対称性をもつ樹枝状結晶は過飽和度の増加に伴い、先端成長方向が<100>から<110>へ転移し、その遷移領域で複雑な先端分岐成長形態を示す。<110>成長を混在させながら全体として<100>方向に成長する遷移領域の低過飽和度側では、規則的先端分岐成長から不規則先端分岐成長への形態変化が観察される。境界の影響がない試料室で行った実験データを、倒立顕微鏡、顕微鏡用テレビカメラを経由し、高画質の得られるリアルタイムTV映像処理装置によって解析することにより以下の結果が得られた。 1.樹枝状結晶先端の最大成長速度は81±1mum/sが得られた。これは約50mum/sと言われていた今までの結果を覆すものである。2.樹枝状結晶の成長速度が境界の影響を受けるのは、境界から約40mum以内であることが実験からわかった。これは理論から得られる拡散長と一致している。3.規則的先端分岐成長の成長速度は、通常成長の81mum/sと分岐成長の49mum/s領域とに2分され、パルス的に速度が変化する結果が得られた。4.先端分岐する周期は過飽和度とともに短くなる。平均的な成長速度は2領域の比率に寄って変化し、過飽和度の上昇とともに成長速度が減少する負性成長特性を示した。5.通常の樹枝状形態から規則先端分岐形態の転移過飽和度は7.40%であった。6.不規則分岐成長は約9%以上の過飽和度で発生する。7.不規則先端分岐成長の側枝発生の時系列を測定し、時系列マップに整理してカオス的振る舞いを研究した。結果として、カオス的振る舞いよりも規則性の強い現象であることが判明した。 多数の樹枝状先端が発生する機構について、カオス性や安定性について調べることが今後の課題である。
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