研究概要 |
この研究課題では、熱可逆性ゲルの相図を統計力学に基づいて構築する理論(「会合高分子溶液論」)を展開した。これは、Flory,Hugginsに始まる高分子溶液の格子理論と、Flory,Stockmayerによって確立された(化学)ゲル化の古典理論(樹木近似)の2つの大きな流れを統合するような、反応平衡の理論である。 (1)これをもとにして、単純な1成分ゲルから出発して、水和したゲル、2成分ゲル、相互貫入型ゲル、高分子のコンフォーメーション変化を伴うゲル、など複雑な相挙動を示す体系(複雑液体)の相図を導く試みを行った。ゾル/ゲル転移と相分離、ミクロ相分離などが競合することによって、全く異なった新しい性質をもつ多重臨界点が出現することを指摘した。 (2)これらの成果を踏まえて、ゾル/ゲル転移線、共存線、スピノダル線、ミクロ相分離線を求める一連の手順をプログラミングし、ワークステーション上で分子デザインの入力により直ちに相図を予測するシステムを開発している。材料設計のシミュレーションとして有効であろう。 (3)ゲル化後に出現する可逆ネットワークの粘弾性研究の基礎となる理論(「組み替え網目理論」)を展開した。可逆ゲルではネットワークの架橋点が生成消滅を繰り返すことにより、体系全体が連結していながら液体のように流動することができる。このようなゾル/ゲル転移と流動性が絡んだ重要な問題に、生物細胞の自己運動がある。また、近年欧米の研究グループでは、thickenerとよばれる粘性調節会合高分子の実験データと、我々の理論とを比較検討する研究が進行している。
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