研究概要 |
起伏のある地形での地表面と大気の間での熱,水蒸気,運動量の交換過程は今までほとんど未解明であった.陸面と大気との相互作用は地域規模の気象の解明だけでなく,全地球規模の気候変動のメカニズムの解明においても重要な課題である.この研究の目的は比較的単純な形の谷や盆地において,熱的に引き起こされる局地循環風と,乱流拡散により熱と水蒸気が水平方向や鉛直方向に輸送されるメカニズムを,野外観測と数値シミュレーションの両面から明らかにすることにある. 長野県の伊那谷はわが国ではもっとの深い谷である.平成5年度にはこの谷のなかで晴天日においてゾンデによる気温と湿度の鉛直分布の観測データを解析し,伊那谷のように深い谷の中央部では,地面からの顕熱が乱流によって伝わる混合層と局地循環により熱が伝搬される層(準混合層と命名)が明確に分離できることがわかった.平成6年度はこの層を乱流のパラメタリゼーションを含む2次元の数値モデルによって再現し,準混合層の形成には山の高さが平地上の混合層高度を上回っていることが必要条件であることが明確になった. また起伏による熱的局地循環の線型解析解をもとめ.局地循環の強度と地形の水平規模の関係を解析的に明らかにすることができた.この結果,斜面上昇風は地形の水平規模が100km程度のときに最も強調されることが分かった.また水平規模が小さくなるほど,谷の中の温位分布が水平方向に一様になる傾向が強まることが示された.この性質を利用すると標高差が1000m以上あり水平距離が概ね20km以内の2点で気圧の日変化を計測すると複雑地形上の広域平均の顕熱フラックスが算定できる.伊那谷のデータで2台の気圧計による下層大気の加熱率とゾンデデータを比較し,良好な結果を得た.
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