研究概要 |
平成4年8月,青森県下北郡東通村大沼の中央付近において,湖沼面より全長80cmの湖底泥を柱状に採取した.堆積物は,主として有機質成分に富む黒色の泥からなり,灰白色の薄い砂層(1〜1.5cm)を挟在する.軟X線写真撮影により,柱状試料中に砂層は計13層見い出された.何れも均一な粒度組成の中粒砂で構成され,数層は細礫を含み,更にその内の2層の下底には火炎状の変形構造が認められた.珪藻化石の検出を試みた所,数枚の砂層から汽水〜海浜環境を指標する種が検出された.抽出した間隙水に関して化学成分の分析を行ったところ,各種化学成分は砂層が挟在する層準で増加する傾向が強いことが判明した.何れの成分も淡水中で非常に少なく,海水中に多く含まれる.汽水〜海浜環境を指標する珪藻化石が検出され,粒度組成が海浜砂に類似し,運搬作用が急激である特徴を考慮して,砂層は津波によって運ばれ堆積したと結論された.津波堆積層年代を鉛同位体^<210>Pb法により推定したところ,過去300年間に三陸沿岸に襲来した中規模以上の津波は,全て記録されていることが判明した.以上の結果により,この研究で得られた津波検出法は,古津波の発見に極めて有効であることが明らかにされた.海跡湖沼は,海岸平野に特徴的な地形であり,津波が最も及び易い位置にある.こうした環境での底質試料は採取が容易であり,本研究で開発された古津波検出法は今後広い応用が期待される.
|