研究概要 |
日高火成活動帯には上部マントルから地殻上部に及ぶ岩石が本来のコンフィギュレイションを保ったままでほぼ整然と露出しており,そこにおいて凍結された火成プロセスのその場観察が可能である.本研究では上部マントルから地殻上部におよぶ各種岩石のSr,Nd同位体,希土類元素組成などを分析し,未分化N-MORBと地殻構成変成岩類の混合という作業仮説によって地殻内火成岩類の形成プロセスを検討した. マントル起源のマグマ組成を代表する未分化岩脈はマントルかんらん石と共存可能な組成を持っている.これはまたN-MORBと区別できない希土類元素・微量元素組成を持ち,Sr・Nd同位体比も典型的なN-MORBのそれを示す.即ちN-MORBソースマントルに由来する未分化N-MORBマグマである.この未分化岩脈と同様な同位体比を示す岩石が地殻構成深成岩体にも存在する.このことは地殻内深成岩体の母マグマは未分化岩脈と同様のN-MORBで良いことを強く示唆する.しかし,地殻内深成岩体は広い範囲のSr・Nd同位体比を示し,島弧火成岩的な同位体比を示すものも含む.この変異の端成分の1つは上述したようにN-MORBであるが,他の端成分は付加体を構成する砂泥質岩類と緑色岩類であり,N-MORBと付加体構成物とのinteractionによってこのような変異をうまく説明することができる.即ち同位体比の変異は起源マントルの多様性に起因するものではなく,地殻内で獲得されたものである.従って,日高火成活動帯を火成弧と考えるよりはむしろ海洋底拡大軸と付加体の衝突域と考えるほうが容易である.
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