研究概要 |
試錐や地表から採集した泥質岩試料約300個から花粉・胞子化石や不溶性有機物を取りだし,その輝度を顕微鏡に装着した画像処理システムで計測した。輝度測定で得られる数値は最大値,最小値,平均値,標準偏差値,積分値,最頻値(最も頻度の高い輝度の値)である。その中では,測定する花粉粒子等の大きさ,黄鉄鉱等の花粉粒子の包有物の影響を一番受けにくく,有機熟成指標となり得るのは,最頻値であった。そこで,各種花粉・胞子化石,不溶性有機物の輝度最頻値を測定し,その値を同一試料中に含まれるビトリナイトの反射率(Ro)と比較検討した。その結果,マツ属(Pinus)とツガ属(Tsuga)の花粉粒子,及び不定形質ケロジェン(lumpy amorphous kerogen)の輝度最頻値が,ビトリナイト反射率の増大にともない,減少傾向を示すことが判明した。特に,マツ属とツガ属の花粉粒子の輝度は,極めてよく似た熟成変化を示し,同一の熟成度では,ほぼ同じ値を示すことが明らかになった。以上の検討結果から,マツ属とツガ属の花粉粒子の輝度最頻値を,第一の数値化した熱変質指標と考えた。さらに,実際の天然での応用例として,試錐と地表ルートにおける石油生成帯の推定を試みた。実際に1本の試錐から回収された一連のコア試料に含まれるマツ属とツガ属の花粉粒子の輝度最頻値を測定し,その値から石油生成帯を推定した。深度の増大にともない,輝度最頻値は大きく減少の傾向を示すが,同一の深度でも分散した値を示し,明瞭に石油生成帯の敷居点を特定することは不可能であった。しかし,深度3000〜3900m付近で値は大きく減少しており,その間に敷居点を突破したことが解る。この推定は,ビトリナイトの反射率からの推定とは調和的である。次に,新第三紀津軽堆積盆地の南西部に位置する中村川ルートで検証した。泥質の露頭試 から採集したビトリナイトの反射率の値は,最大でも0.44%で,石油生成帯の敷居点まで達しておらず,全体に未熟成を示す。一方,花粉粒子の輝度最頻値は,特にツガ属の値は,ビトリナイトの反射率との逆相関を示している。以上のように,同一熟成度での分散はあるが,マツ属とツガ属の花粉粒子の輝度最頻値は,ビトリナイトの反射率と同様に,有機熟成指標としての有効性が実証できた。これらの内容は,石油技術協会と日本地質学会で発表した。
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