研究概要 |
本研究では海洋表層の生物環境の変動と深層のセジメントトラップにつかまる沈降粒子の炭素,窒素同位体比の関係を明らかにするための第一歩として,表層の懸濁粒子と沈降粒子の炭素,窒素同位体比の関係を明らかにすることを目標とした. 現在得られている結果は次の通りである. 1)懸濁粒子(POM)の濃度は表層から有光層下部にかけて急に減少する.POMのC/N比は有光層ではほぼ6であり,それ以深で急に増大しおよそ10-12に達し深層までほぼ一定の値を持つ. 2)POMの炭素同位体比は有光層下部で極小値を示す.深層(200-4000m)では表層とほぼ同じ値を示す. 3)POMの窒素同位体比は有光層では低い値をとるが,それ以深では深さと共に急に増大(+5per mil)しほぼ一定の値を示す. 4)沈降粒子の粒子束は有光層中間部で極大を示す. 5)沈降粒子の炭素同位体比はほぼ一定で有光層上部のPOMの炭素同位体比とほぼ等しい. 6)沈降粒子の窒素同位体比は粒子束の極大層より浅いところで極大値を示すが,平均的には有光層のPOMの窒素同位体比とほぼ等しい. これらの結果から深層に輸送される沈降粒子は有光層の上部で生成されたものが殆どであること,沈降粒子,懸濁粒子共に有光層のすぐ下の層で急に分解を受けること,深層の懸濁粒子は有光層直下での急速な分解を免れた沈降粒子がある決まった分解を受けた物であることがわかった. 以上,本研究の目標はほぼ達成されたものと考えるが,今回の結果は有光層下部でのPOMの炭素同位体比の極小に関して,従来の説明(弱光下での光合成にともなう大きな同位体分別)に加えて,新しく,有光層下部での活発な分解過程によって再生された二酸化炭素の再利用の可能性を示唆する物であり,この観点からの研究の展開が期待できる.
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