研究概要 |
本研究においては、溶媒和金属原子クラスターの電子構造を負イオン光電子分光法によってサイズ毎に直接に観測することを目的とした。特に、アルカリ金属原子を水やアンモニアなどの極性溶媒分子で配位させたクラスターの電子構造を知ることは、凝縮相における溶媒和電子状態の微視的な理解において不可欠と考えられる。本年度は、その予備実験として銅原子水和クラスターCu(H_2O)_nにこの方法を適用し、n=3までのクラスターについて、電子親和力及び励起状態の安定化に関する知見を得た。銅原子は基底状態において^2S(3d^<10>4s^1)の電子配置をとり、アルカリ金属と同様に正の電子親和力(1.23eV)を持つ。さらにこの電子基底状態よりも約1.3eV上に^2D(3d^94s^2)状態が存在する。Nd:YAGレーザーの三倍波355nm(3.49eV)による電子脱離によって、Cu^-に水分子が1-3個配位したクラスターでは1.23eVのピークがそれぞれ1.7,2.1,2.5eVにシフトすることが確認された。ただし、n=2,3ではピークは複雑に分裂しており、その帰属は現在のところできていない。この結果は水分子一個の配位によって約0.4eV電子親和力が増加することを示している。これは以前にCheshnovskyらが報告しているI^-(H_2O)_nの電子親和力のサイズ依存性ときわめて近い傾向を示している。この場合には余剰電子はI原子に局在化していると考えられている。このことから、銅‐水系においても余剰電子は銅原子に局在していると予想される。さらにKrFエキシマーレーザー248nm(4.99eV)による電子脱離では水分子の配位による^2D状態の変化が観測された。このとき、Cu(H_2O)^-では、^2Dに起因すると考えられるバンドが2.8eV付近に観測された。この結果から、Cu(H_2O),Cu(H_2O)^-における水分子の結合エネルギーがどちらもおよそ0.4eVと見積もることができた。
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