研究概要 |
筆者は、エノールエステルのアシル-酸素結合の開裂による金属錯体への酸化的付加反応、すなわちオキサアリル錯体(エノラート)の新しい生成法の開発、およびそのアルドール型縮合反応への応用を試み、以下の点を明らかにした。1.酢酸イソプロペニルとベンズアルデヒドの反応をモデルとして、触媒/試剤系を調べたところ、PdCl_2(PhCN)_2/SnCl_2,Pd(OAc)_2/2PPh_3/Zn,Ni(COD)_2/2PPh_3/Zn(NaHCO_3,orCsF)が有効であった。2.上記の複合剤系で酢酸イソプロペニルと種々のアルデヒドの反応を試みたところ、Pd/ZnおよびNi系では、配位力の強いアルデヒドが反応しやすく、通常、選択的に(E)-3-ブテン-2-オン誘導体を生成した。3.2の結果を踏まえて、異種アルデヒド存在下の化学選択性を調査したところ、キレート可能なアルデヒドが選択的に反応することがわかった。置換ベンズアルデヒドでは、電子供与基を持ったものが選択的に反応した。4.エノールエステルのニッケル(0)またはパラジウム(0)錯体への酸化的付加がキーステップであることを推定した:Pd(OAc)_2/2PPh_3またはNi(COD)_2/2PPh_3をベンズアルデヒドに対して当量使用し、Znなしで反応を行ったところ、ニッケル系のみ反応した。また、ニッケル系では亜鉛の代わりに塩基(NaHCO_3,CsF)を用いても反応した。それらの結果から、ニッケル系では、酸化的付加して生成したニッケルエノラートが直接反応し、亜鉛(または塩基)は脱離した酢酸をつかまえ、ニッケル(0)の活性を維持する役割をしていると考えた。パラジウム系では、亜鉛がなくては反応しないので、酸化的付加した後、亜鉛から電子移動が起こることにより進行すると考えた。
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