物質の構造による情報を与える振動分光法の代表的な測定法として、赤外分光法が広く用いられている。そのうち特に赤外発光分光法は、赤外光に対して透明ではない試料や、表面が平坦ではないような試料などの実用材料に対して、その場測定が可能であるという優れた特徴を有している。しかし、赤外分光法は感度があまり高くないという面もあった。そこで本研究は、赤外発光分光法の感度増大と、感度上昇のメカニズムの解明を目標として行われた。具体的に実験方法は金属微粒子薄膜を用いることによる、表面電場の増大から赤外発光の信号強度の改善を考えた。その結果、基板層に高反射率層を用いた場合、垂直偏光において70゚〜80゚の高い取り出し角で測定することによって約4倍程度の感度上昇が認められた。また基板層に透明体層を用いた場合、垂直、平行両偏光において大きな感度増大が認められた。 これらの感度増大のメカニズムの解明のために計算によるシミュレーションを行った。金属微粒子薄膜を回転楕円体として近似し内部における分極率の変化を求め、さらに微粒子間の相互作用をBruggemanの有効誘電率近似法を用いて、発光スペクトルをシミュレートした結果、計算値は実験結果とよく一致した。そこから金属微粒子薄膜を用いた場合の発光強度の増大は、金微粒子内の分極率の変化および微粒子間の相互作用による物と考えられる。またこの表面増強赤外発光法の応用例として黒鉛炉原子吸光法の炉内反応について測定を行った。その結果炉内反応について新たな知見が得られたことから、この測定法は非常に有効であると結論された。また、この測定条件が触媒反応のその場測定にすぐ応用が可能なことから今後、さらに実験を行いたい。
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