研究概要 |
1.数十mkの極低温で性能を発揮できる交流磁化率測定系を設計し、現在は試作・試験中である。 2.ベンゼン環の1,3位にニトロニルニトロキシド(NN)基をつけた化合物の、磁化率の奇妙な温度依存性が、構造相転移と量子効果の複合した現象であることを、X線回折と強磁場磁化過程の測定によって明らかにし、論文を投稿した。またベンゼン環の1,3,5位にNN基をつけた化合物の磁性の研究を行い、孤立分子の基底状態が四重項であるのに、結晶中では低温で見かけ上は二重項のように振舞うことを見出した。これは分子内と分子間の交換相互作用の競合によって量子効果が現れたものと解釈できる。 3.2位に単原子基をもつNN誘動体3種類(2-ヒドロ,2-ブロモ,2-ヨード)の単結晶試料を作製し、磁性と結晶構造を調べた。2-ヒドロ体は低温で磁気的な二量化により一重項状態になるが、この分子間交換相互作用に水素結合が深くかかわっている可能性に注目して、さらに研究を継続する。2-ヨード体の磁性の特徴は、強磁性的相互作用と反強磁性的相互作用の競合と、磁気的基底状態近傍のエネルギーギャップが極めて小さいことである。結晶構造に基づいた解釈を確立するために、現在も研究継続中である。 4.金属絶縁体転移に伴って特異な物性を示す分子性伝導体DCNQI-Cu系の磁性を研究して、絶縁相における弱い強磁性を発見し、また相転移の性質を磁気的に解明した。さらにDI-DCNQIの銅塩では、伝導電子系の強相関に由来する磁化率異常を見出した。これは、局在性が強くて磁性にかかわるd電子と伝導を担うπ電子の相互作用の効果が、金属状態においてはっきり現れるという従来にないことであり、今後さらに研究を継続させる必要がある。
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