研究概要 |
1.リン脂質合成酵素遺伝子の発現誘導系の構築: [遺伝子の単離]:枯草菌のリン脂質合成にかかわる主要三酵素の遺伝子のうち,ホスファチジルセリンシンターゼ遺伝子(pss)はクローン化を済ませた。ホスファチジルグリセロリン酸シンターゼ遺伝子は大腸菌の同酵素遺伝子欠損突然変異を相補するクローンを分離したが,これは酸性リン脂質含量の回復を示さず,gene dosage効果等により酸性リン脂質欠損障害を克服する未知の因子の遺伝子を単離したものと思われる。更に相同遺伝子プローブによる単離を検討中である。[発現制御系の構築]発現誘導系は大腸菌を宿主とする系のみを構築した。即ちlacプロモーター下流に枯草菌のpss遺伝子を組込み,膜フォスファチジルエタノールアミン含量の人為的昂進を可能とする系を構築した。 2.大腸菌リン脂質合成欠損突然変異の導入によるdnaA突然変異体の温度感受性の変化:本研究計画は枯草菌を主として大腸菌を従とするものであったが,標記現象を見いだした為,大腸菌を主な材料として検討することとし,以下の成果を得た。dnaA177突然変異株の温度感受性は,酸性リン脂質含量を著しく低下させるホスファチジルグリセロリン酸シンターゼ欠損突然変異pgsA3の導入により緩和され,逆にホスファチジルエタノールアミン含量が低下し酸性リン脂質レベルが上昇するホスファチジルセリンシンターゼの温度感受性変異pssA1の導入により著しく高まった。また野生型pgsA遺伝子を持つプラスミドの導入により,酸性リン脂質レベルを上昇させた場合も温度感受性を増大させた。oriCプラスミドpSY317は,pssA1dnaA二重変異株では著しく不安定となり,細胞が示した温度感受性の変化は,DNA複製開始過程の現象を反映するものであることを示唆していると考えられる。これらの結果は,in vivoで実際に,膜中の酸性リン脂質レベルがDNA複製開始機構に関与していることを初めて示唆したものである。
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