研究概要 |
本年度は、(1)ツヤクシケアリの活動開始時期(5月初旬)から、昨年マークした巣口の分布を調べ、多巣化の過程とその際に生じる他種ヤマクロヤマアリとの相互干渉を明らかにすること,(2)広範囲に分布するツヤクシケアリの巣間の個体が同一コロニーのメンバーであることを標識・再捕獲で確認すること,(3)ツヤクシケアリのコロニーにおいて、女王存在下で、だれがオスアリの生産者なのかを、DNAフィンガープリント法を用いて特定化することを目的とした。 1.昨年設定した2つの区画A(6x12m)とB(10x15m)には各々約40個と70個の巣口が分布するが、その巣口の殆どが昨年と同様にツヤクシケアリによって使用された。しかしシ-ズン途中から、各々の区画において周辺に分布するヤマクロヤマアリが利用者になる巣口が一部に現れた。さらにその一部では再びツヤクシケアリが利用者に復帰するなど,種間で巣口(即ち巣場所)の占有をめぐる干渉があることが示唆された。両種の働きアリが地表で出会った際の行動は一方的にツヤクシケアリが攻撃的であり、ヤマクロヤマアリは素早く逃亡するだけであった。 2.上記の2つの区画を含めて3区画で、合計約20の巣口から得られた約1000匹の働きアリに対して、巣口ごとに異なる色の油性マーカーでマ-キングを施し、巣口間でのアリの移動を追跡した。その結果、区画Bでは植物群落を挟んで約7m離れた巣口間で個体の移動が確認されたこと、区画C(5x5m)ではその全域に存在する約30の巣口が同一コロニーのものであることが推測された。 3.3個のコロニーを発掘し、各々から得られた女王アリ、飛出前の新女王アリ(あるいはそのサナギ)、同じく飛出前のオスアリ(あるいはそのサナギ)について個体別にDNAフィンガープリントを行った結果、バンド解析が明瞭に行えたほぼ全てのオスアリが女王アリのもたないバンドを持っていた。このことは、これらのオスアリが女王アリの単為生殖による子孫ではなく、働きアリによって生産された個体であることを示している。
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