研究概要 |
我々はニンジン胚軸切片を2,4Dで短時間処理し、ついで2,4Dのない培地に移し培養すると表皮細胞が分裂し,細胞塊形成をへて不定胚が形成される系を見いだした。この系では表皮細胞から不定胚形成が一段階でおこることから不定胚形成系を研究する上で良い実験系である。胚軸切片を2,4Dで前処理する場合,2,4D濃度が高くなるに従い処理時間が著しく短時間でも不定胚が形成された。例えば100mg/lの2,4Dで胚軸切片を前処理した場合5分間で不定胚が形成される。また、低濃度2,4Dの処理で形成された不定胚は植物体に再生されるが,高濃度で処理した場合は不定胚は形成されるが植物体には再生されなかった。 表皮細胞から不定胚が形成される過程を光学顕微鏡と走査型顕微鏡をもちいて観察した。表皮細胞は軸と垂直方向に分裂しながら肥大し,その後軸方向にも分裂がおこり細胞塊を形成した。細胞塊はさらに軸方向と垂直方向に分裂するが斜め方向の分裂がおこったときその部位が球状に肥大しながら分裂し,前不定胚をへて不定胚を形成した。また走査型顕微鏡の観察で細胞塊や球状胚の表面に突起状の細胞が形成し,それが分裂しながら伸展し胚表層を覆うことにより,不定胚が発達していく様子が観察された。球状胚の横断面を光学顕微鏡で観察したところ,同様な突起状の細胞が観察された。 この不定胚形成系において,老化や傷害応答に関係するメチルジャスモン酸(MeJ)や糖タンパク質と結合するコンカナバリンA(ConA)の不定胚形成における影響を検討した。その結果,MeJとConAをそれぞれ添加した培地で培養すると両者とも不定胚は形成されるが魚雷型胚の段階まで進行するか,MeJでは植物体には再生せず、ConAでは一部は植物体に再生するが矮小化したものであった。また両物質で誘導した魚雷型胚や矮小化した植物体の表層に多数の不定が形成された。
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