研究材料はダイコン芽生えを用いた。ダイコン下胚軸では、維管束から成る中心柱のすぐ外側に位置する、皮層の最内層細胞が重力の感知細胞として働いていることを確認した。この細胞では、重力の方向の変化に伴い、その中に含まれる色素体が重力方向に移動した。この重力感知細胞の微細構造を観察した結果、細胞の表皮側の側壁下部に特異的な原形質連絡が存在することを見出した。植物の茎では、維管束の集まった中心柱側から表皮側に向かって水が移動している。そこで、以上の結果をふまえて、色素体は重力に反応して移動するおもりとして働いているだけでなく、色素体自身が何らかの生理活性物質を分泌していると仮定し、次のような仮説を提唱した。すなわち、重力変化により原形質連絡部の近くへと色素体が移動すると、原形質連絡からの水の流れに乗って、色素体が分泌する生理活性物質が隣接する皮層細胞へと流出し、その結果、重力に対して下側の皮層細胞中で生理活性物質の濃度が高くなり、茎が屈曲する原因となる、というものである。この考えを検証するために、重力感知細胞の微細構造を立体的に観察し、細胞の側壁下部にある原形質連絡部の三次元的配置を明らかにした。また、植物の茎と同様に重力屈性を示す植物の根においても、上記のような説明があてはまるのがどうかを知るために、植物の根の重力感知細胞の微細構造の観察を行なった。その結果、植物の根の重力感知細胞においても、その原形質連絡が重力感知に関与している可能性を得た。
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