ウミユリ(トリノアシ)の水槽内での行動を、ビデオで記録し、解析した。ウミユリは流れのある場所をもとめて移動した。移動運動は、腕により水槽の床を這う運動と、水槽内に垂直に立てられた格子を登る運動とがあった。這う場合には、進行方向の腕は反口側に曲がって体を引っ張り、進行方向と反対側の腕は、口側に曲がって体を押した。登る際には、腕の反口側に曲がる運動により、体が引き上げられていった。 ウミユリの腕は、円盤状の骨片が関節を介して一列につながってできている。関節部の組織学的および微細形態学的研究を行った。骨片の関節面の中央部に支点となる骨の凸部があり、その口側にのみ筋肉が見られた。反口側には、2種の靭帯が見られた。fossa ligament(FL)とわれわれが名付けたもの(これは今までの文献には見あたらず、新発見である)とaboral ligament(AL)である。FLは骨片のくぼみに納まっており、コラーゲン繊維が非常に密に接近して並んで、コラーゲン以外の要素はまれである。これは関節の脱臼防止の働きがあると解釈した。ALにはコラーゲン繊維の他に、微細繊維やjuxtaligamental cell様の細胞が見られた。微細形態の上からは、他のキャッチ結合組織とよく似ていた。微細繊維をpolyethyleneimineで染色すると縞模様が見え、このバンドの幅が靭帯を引き伸ばすと変化した。微細繊維が弾性的な性質をもつ可能性がある。 ALの力学試験を行ったところ、ALは弾性的な性質を示した。弾性率は試料により、大きなばらつきを示し、高いものと低いものの二つの山が見られた。これは力学的性質が変化すること(キャッチ結合組織であること)を示唆する。以上の結果から、ウミユリの腕の運動は、口側の筋肉による口側への曲げと、バネのようなALによる反口側への曲げによって起こり、腕の姿勢維持には、靭帯のキャッチ結合組織としての性質が関与していると結論した。
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