研究概要 |
私達はごく最近,トコブシの口の筋肉に多量に含まれる組織ヘモグロビン(ミオグロビン)が,いわゆるヘモグロビン遺伝子から生じたものではなく,ヘムを含むが機能的に全く異なるトリプトファン分解酵素の一種,インドールアミン二原子酸素添加酵素(IDO)から機能的に収束進化し,トコブシの中ではヘモグロビンとして機能していることを強く示唆する結果を得た. 本研究では先ずトコブシのヘモグロビンの酸素平衡曲線の測定から,その酸素結合能は通常のものよりも数倍低いもののトコブシ・ヘモグロビンが生理的に十分機能し得ることを示した.次にこの特異なヘモグロビンがトコブシにおいてのみ発現しているのかどうかを明らかにするために,近縁のマダカアワビ(Nordotis madaka)の組織へヘモグロビンの構造を調べた.全cDNA配列を決定し推定されるアミノ酸配列を検討した結果,マダカアワビにもトコブシ同様のIDO型ヘモグロビンが含まれていることが明らかになった.さらにトコブシ・ヘモグロビンとIDOの関係を明確にするために,トコブシヘモグロビンの15329bpから成るゲノムDNA構造を明らかにした.この遺伝子は14エキソンと13イントロンから構成されており,そのイントロン・エクソンの配置はヒトのトリプトファン分解酵素IDOのものと非常に良く似ていた.また,トコブシの遺伝子の5'上流域にはヒトのIDO遺伝子同様,インターフェロン刺激応答エレメント(ISRE)様配列が存在し,トコブシにおいてもインターフェロン様タンパク質が存在している可能性が示唆された.これらのことはトコブシ・ヘモグロビンがIDO遺伝子から進化したことを明確に示している。
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