研究概要 |
北日本から採集された標本サンプルのうち、北海道産のミノウミウシ類についてすべての種が、属位まで決定された。これによると、全部で少なくとも5科8属17種を数えることができた。現時点で種名まで決定されたものは10種である。これらの内訳を生物地理学的にまとめてみると、わが国沿岸のみに出現する、いわゆる固有種は、Flabellina athadona,Flabellina amabilis, Eubranchus horii, Cuthona pupillae, Sakuraeolis modestaの5種であった。海外からも知られる残り5種の中でもっとも注目されるのは、Flabellinidae科のChlamylla atypicaとその近縁種(ひょっとすると同種の可能性もある)の発見であった。Ch.atypicaの模式産地はグリーンランドの沖合であり、本属のすべての種がこれまで環北極分布をしており、わが国での分布はほぼ南限といえる。同じ科のもう1種は、かつて北海とバルチック海の境界海域から発見されたFlabellina parvaの可能性が非常に高く、もしそうだとするとこれも環北極分布の一例に加えられることになる。環北極種には、これまで世界の北の寒海から知られていたAeolidia papillosaの存在が今回も確かめられた。このほかに北米西海岸と共通のEubranchus misakiensisとHermissenda crassiocornis, Catoriona columbianaなどは、日本〜オレゴン要素を構成する種群ということができる。未記載種ないし本邦初記録の可能性があると思われる種が一番多く見つかったのは、やはり最大の属Cuthonaに属するものであった。これらの記載はまだ完了していないが、こうしたα分類学の成果の他に、幼生の形態を区別する研究と、これを基礎とした餌生物の定着変態基質としての役割について興味深い知見を明らかにすることができた。
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