研究概要 |
近年における加速器質量分析計(AMS)を用いた放射性炭素年代測定法の発展は,分析試料の量を飛躍的に少なくすることを可能とし,骨の絶対年代測定法としての実用性をはるかに高めることに大きく寄与した.しかしながら,AMS測定においても現在のところなお通常で2〜5グラムの骨試料が測定に供されているが,貴重な古人骨の場合,数グラムを分析用に捻出することさえ難しいこともしばしばあり,更なる省サンプル化が望まれている.本研究は,年代測定する際に骨試料からコラーゲン等を分別抽出するステップについて,効率よくコラーゲン等が回収できる操作を検討し,分析サンプルの少量化によって放射性炭素法の古人骨資料への適用性を増大させることを目的に行われた. まず,遺跡から出土した骨遺残を入手し,それらの試料からコラーゲンを抽出した.このとき,骨の脱灰から,コラーゲンの分離,洗浄,精製に至る実験操作を,各試料につき可及的に(具体的には最終抽出物を得るために真空乾燥する直前まで)1本の試験管内で行えるように工夫し,化学処理過程における損失を防ぎ,放射性炭素の測定に供されるフラクション(試料本来の炭素を含む部分,この場合精製処理されたコラーゲン)の回収をより良好にするように図った. 以上の実験から,完新世の骨で0.3〜0.5グラム程度,場合によっては炭素試料のグラファイト化を併用することにより0.1g以下の骨粉末試料からAMS放射性炭素年代測定の可能な量の炭素試料が得られた.本結果は今後,古人骨を放射性炭素年代測定へ供する際の資料の破壊を最小限に留めることに寄与すると思われる.
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