研究概要 |
ナノ秒Nd:YAGレーザー照射により生じる脱離粒子集団の空間的構造とその時間的発展について以下の知見が得られた.この研究は,非点収差補正マルチチャンネル分光器(購入備品)をストリークカメラ・冷却型CCDカメラと組み合わせて時間分解発光測定システムを作製し,スペクトル時間分解,空間時間分解,単色空間時間分解の3種類の配置で系統的に測定することにより行われた. 1.大気中及びHe雰囲気中でグラファイトを基本波(λ=1064nm,100J/cm^2)で照射して生じるプルームが,時間的にも空間的にも三成分からなること,第一成分はプラズマ,第二成分はプラズマにより駆動された衝撃波,第三成分は炭素ラジカルであること,そしてその成分の発生機構を明らかにした. 2.高真空領域でSi(111)及びNiO焼結体を4倍波(λ=266nm,5J/cm^2)で照射して生じるプルームは,電子(飛行速度約10^6m/s),イオン(約10^5m/s),中性原子(約10^4m/s)の三成分に分離できることを明らかにした.イオンはプラズマから抜け出した電子によって前方に強く加速されるため,中性原子よりかなり速く飛行すると考えられる.また,中性原子の速度の放出角依存性も求められた. 3.2.と同じ系で照射強度がアブレーションのしきい値(約1J/cm^2)以下の場合,Siの脱離粒子は2.の成分の代わりに,非常に遅く(約10^3m/s)広い速度分布をもつ成分があることを明らかにした. 以上の結果により,本研究で開発した時間分解発光測定システムは,レーザー脱離により放出された粒子集団の動的過程について有力な情報を提供することが示された.特に,肉眼では確認できない発光粒子の挙動が捕らえられたことは,このシステムの感度の高さを物語っている.しかし,究極的な目標であった吸着粒子の脱離の検出には至らなかった.
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