研究概要 |
電子顕微鏡の優れた空間分解能(〜nm)を生かして、薄膜の局別的な熱伝導率を測定する方法を確立し、30〜300nm程度の厚さを持つ結晶性薄膜に適用した。 電子が薄膜を透過するとき熱散漫散乱を受け、電子顕微鏡の観測像面におけるビーム強度は試料温度によって変わる。また、集束レーザービームを薄膜に照射させると局所的に高速、高温、かつ、繰り返し加熱が可能となる。これらの機能を組み合わせると、高い空間分解能で薄膜の伝熱特性を調べることができる。 振幅変調されたHe-Neレーザーの集光系を電子顕微鏡に取り付けられた。約10mWの電力を10〜20μm径の領域に集光させ、同時に試料状態を観察し、その小領域(試料上で〜1μmφ)のビーム強度を検出器で計測した。 試料温度は膜の熱容量と熱拡散のため、レーザー出力の位相より遅れる。この位相差が膜の熱伝導率に換算される。そのさい、絶対温度や膜厚に無関係に熱伝導率が導出できる利点がある。 厚さの異なる種々の蒸着膜(Al,Sn,Ni,Sb,Ge,Cu,Mg,Bi)について測定を試みた。一般に、薄膜の熱伝導率はバルクの値の30%から80%の範囲にあり、結晶粒が大きくなるにしたがって熱伝導率はバルクの値に近づく。また、膜厚の減少と共に熱伝導率が低下する傾向がある。 今回の期間中には、粒界や欠陥などの微細構造が伝熱特性に及ぼす影響について調べることができなかった。これらは今後の研究課題として残った。
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