研究概要 |
本研究では、離散値ランダム系列の新しい発生法と設計法として離散値差分方程式を提案した。離散値差分方程式は,多次元自己回帰方程式の一種であるが,差分方程式の係数が離散値を持つ不連続ランダム関数であること,方程式の構造が単純であること,また確率分布と相関関数の理論値が厳密に計算できることなどの特徴がある。 まず、線形の離散値差分方程式による2値多重マルコフ連鎖の発生法を検討した。ランダム係数関数が直交性と保存則をもつこと、電力スペクトルがランダム係数関数の平均値で記述できることを証明した。これらの関数式は2値多重マルコフ連鎖の設計法として実用的な価値をもつものである。 次に、時間軸上の離散値差分方程式を2次元平面上の離散値自己回帰方程式に拡張し、ランダム2値画像の発生法を研究した。実際に、有理形スペクトルをもつランダム2値画像を設計し、離散値自己回帰方程式を数値的に解いて、ランダム2値画像を発生した。 さらに、任意の2値多重マルコフ連鎖が満たす離散値差分方程式を逆に求めた。その結果、マルコフ連鎖は非線形の離散値差分方程式を満たすこと、マルコフ連鎖とその巾を成分とするベクトル時系列を導入すれば、非線形の方程式は線形の離散値差分方程式となることなどを証明した。 以上の研究では、2値系列、2値画像に限定されていたが、次に、多値マルコフ連鎖の構成法を研究した。よく知られているように、マルコフ連鎖の遷移確率行列が与えられれば、定常確率分布と相関関数が計算できる。しかし、任意の確率分布と相関関数を与えたとき、逆に遷移確率行列を構成することは逆問題であり、ほとんど解かれていない。申請者は、直感と試行錯誤により、任意の確率分布と指数形相関関数をもつ単純マルコフ連鎖の遷移確率行列を構成する方法を発見した。 これらの一連の研究成果は、電子情報通信学会英文誌(A)に投稿し、掲載されることとなった。
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