研究概要 |
本研究は計算機実験の一手法である分子動力学法を用いて原子レベルの切削加工実験を行い,加工機構や加工限界を明らかにすることを目的とした.とくに,ナノスケールの切削における工具-被削材間の摩擦と工具摩耗に焦点をあて,ダイヤモンド工具を用いて銅単結晶を直交切削する場合について検討した.主な成果をまとめると次のようになる. (1)計算時間の効率化を目的とした領域限定分子動力学法を提唱した.これを基礎に,初期モデルの作成から結果のグラフィック表示までをワークステーション上で一貫して行えるシミュレーションプログラムを作成した. (2)工具-被削材間の摩擦の変化を界面ポテンシャルの凝集エネルギーの相違と仮定して切削シミュレーションを行った。マクロな切削と同様に,電子レベルにおいても摩擦の大小が切屑生成に大きく影響する. (3)工具原子間ポテンシャルの凝集エネルギーを減少させることによって,工具切れ刃の摩耗現象を再現した.摩耗,被削材原子と工具原子の相互拡散および脱落した工具原子の工具への再凝着の過程から成る. (4)界面ポテンシャル形状と工具摩耗は最小切削厚さ,すなわち機械加工限界にも影響し,界面原子同士あるいは工具電子同士の相互作用が強いほど最小切削厚さは薄くなる. (5)銅完全単結晶(111)面を〔101〕方向に切削する場合の最小切削厚さは2原子層,このときの仕上げ面変質層深さは10原子層程度である. (6)銅単結晶中に原子空孔や刃状転位が存在する場合には,切れ刃から進展する転位との相互作用によって,仕上げ面内部の原子配列の大きな乱れや切削抵抗の増大を引き起こす. (7)ナノスケールの切削におけるトライボロジー現象が切屑生成や仕上げ面性状に及ぼす影響は,マクロな切削におけるものと類似する.
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