研究概要 |
研究は実験的方法と理論的方法の両面から行なわれた.従来の潤滑剤は境界潤滑により摩擦逓減を行っていた.従って摩擦係数の下限は0.1程度であった.本研究に用いる開発する潤滑剤は環境への影響を最小にするために従来の潤滑剤より潤滑性が劣る可能性がある.このような物質においても良好な潤滑性能を維持するために表面化学反応により生成した物質が弾性流体潤滑を生じるような条件の設定を研究した.高分子のモノマーを溶媒とする環境下,溶媒の吸着活性を有する金属を摩擦することにより,摩擦面に高分子を生成させ摩擦係数を低下させる試みを行った.この結果潤滑に有効な摩擦高分子を生成させるためには,摩擦する金属の一方が溶媒分子の吸着活性を有していればよいことがわかった.このようにして生じた膜は自己修復性を有し,何等かの原因に因って潤滑膜が破断しても表面化学反応によって修復される点が従来の弾性流体潤滑膜と異なっている.また摩擦面が有効な高分子重合の触媒活性を有するためには,初期の摩耗率を小さくしておく必要が有ることがわかった.また表面粗さが反応活性の大小に影響を与えることも判明した.そのため表面粗さを系統的に表現する方法の開発も併せて行った.理論的方法としては分子軌道法による量子力学的計算を応用し摩擦面における表面化学反応によって生成する物質の物理化学的性質を推定し,環境にやさしい潤滑剤選択の第1スクリーニングとする方法研究した.この結果拡張ヒュッケル分子軌道法をd電子にまで適用した計算によりモノマーが共役π電子系を有している場合,金属のd軌道の空孔濃度とフロンティア電子の反応活性の相関が,実験から得られた反応活性と良い一致を示すことがわかった.
|