研究概要 |
第一に,従来型の真空アーク蒸着装置において,黒鉛陰極のドロップレット抑制が可能かどうかを検討するため,陰極点の運動速度を計測した。実験条件は,陰極直径:64mmφ,水素ガス導入量:10ml/min,アーク電流:50A,雰囲気圧力:0.2および0.05Pa,陰極表面印加磁束密度:3〜25mTとした。その結果,黒鉛の陰極点は逆行運動するものの,その速度はチタンやアルミのそれより2桁以上も遅いことが判明した。この結果に関し,以下のように解釈できることを指摘した。黒鉛陰極点の形成には,熱電子放出が伴わなければならない。陰極表面が熱電子放出を開始する温度に達するには,ある程度の時間がかかる。そのため,逆行速度は遅く,限界が存在する。以上のように,黒鉛陰極の場合,従来型の真空アーク蒸着装置ではドロップレットの抑制は困難であることを明らかにした。 次に,陰極部をノズル付きエンハンス型とした新しい構造の真空アーク蒸着装置を設計製作した。この構造にすることにより,ノズル部に熱プラズマを発生させ,その領域で,陰極から放出されるドロップレットを蒸発させ,同時に,イオンエネルギーを増加させようとするものである。製作した蒸着装置において,アークを点弧し,プラズマの様相を観測したところ,磁界の強さを増加させると,プラズマが徐々に圧縮されることを確認した。また,同時にアーク電圧を計測したところ,磁界を強くすると,アーク電圧が上昇した。このことから,従来の装置より,高エネルギーのイオンが得られると考える。 しかしながら,新しい構造の蒸着装置では,アークを電気的に発弧する必要があるという問題が生じ,膜の生成実験は行っていない。今後は,この装置の実用化に向けて,アークの電気的点弧法を確立する。
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