研究概要 |
有機高分子は充填剤や他の高分子との複合絶縁系として多く用いられており、より高電界で使用するためには、絶縁体-絶縁体界面での電荷注入・蓄積・輸送過程を明らかにする必要がある。そこで、フェルミ準位の位置が異なるポリスチレン(PS)-ポリメチルメタクリレート(PMMA)複合絶縁系をモデルシステムとして光電流測定を行った。PMMA層から輸送された電子はPMMA層から輸送されたホールに比べ界面を容易に通過し、PS層に達する。一方、PS側から輸送されたホールはPS層から輸送された電子より界面を容易に通過する。このようにPS-PMMA複合系の界面での電子性キャリアの注入・輸送過程はキャリア種やその移動方向に強く依存する。 次に、こうした非対称光電導特性を解明するためPS,PMMA単体の実行的な電子レベルの評価を光キャリア注入法を用いて検討した。その結果、PSの表面に固有の表面準位がほとんど存在しないこと、電子あるいはホールの伝導に実行的に寄与するレベルがそれぞれ真空準位から2.4 eV、6.8 eV付近に存在する可能性が示唆された。一方、PMMAの表面にも固有の表面準位がほとんど存在せず、電子あるいはホールの伝導に実効的に寄与するレベルがそれぞれ真空準位から0.29 eV、 5.08 eV付近に存在する可能性が示された。これらの結果から得られたエネルギー準位図によりPS層から輸送された電子の界面でブロッキング現象などの非対称光電導特性が説明できることが明らかとなった。また、PSとPMMAの接触帯電や界面での電子性キャリアの輸送過程が同じドナー・アクセプタ準位で説明できることなどが明らかになった。 本研究は、光電導法が複合絶縁系の絶縁体-絶縁体界面での電荷交換過程を解明する有力な手法であることを実証するとともに、界面準位の制御法の確立に大きく貢献できたものと思われる。
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