研究概要 |
本研究では,量子効果現象を利用する半導体超格子に対する複素等価回路を用いて,電気回路的に新物質設計を論ずるものであり,次の研究を行った。 (1)共鳴状態の存在寿命をラプラス変数の複素エネルギーから求めることを提案し,従来不可能であった種々の多重バリア構造の存在寿命も,用意に求めている。 (2)ヘテロ界面の複素等価回路を求め,Γ-XミクシングやタイプIIあるいはIII型量子井戸の解析を行い,境界条件の一般的な等価回路表現を用いて,GaAs/Al_x Ga_<1-x>, InAs/GaSbを用いた量子井戸の固有エネルギー準位,周期的ポテンシャルによるミニバンド構造などを求め,δ形ポテンシャルを含む1次元ポテンシャル中の電子波の透過特性の合成問題を解いている。また,最近注目されているGaSb、InAs、AlSbなどを用いたRIT (Resonant Interband Tuneling)構造での波動現象を記述するKaneが示した2バンドモデルを回路論的に考察し,その等価回路を求めている。 (3)共鳴トンネル準位の合成の研究として,共鳴トンネルダイオードを高性能化するために、フェルミエネルギーより低いコンダクション帯にのみ共鳴トンネル準位を作る手法を提案し,特に、深い井戸の利用が有効なことを示している。 (4)量子力学の研究では,トンネル効果と摩擦との関係が問題となっている.摩擦を波動方程式に表すと損失のある線路に対応する.本研究では,波動方程式を電信方程式に置き換え,変数を電圧と電流の二つにして表現するので,電圧および電流のS行列を求めることができ,量子的摩擦の解析を可能にしている. (5)量子現象の波動を表わす式はシュレディンガー波動方程式のみではなく、それを拡張したと考えられるディラック作用素もある。本研究では、ディラック作用素を満足する複素等価回路を求め、そこに伝搬する波動の性質を明らかにするために,その基本的性質の二、三を示している。
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