研究概要 |
本研究による成果をまとめると次のとおりである. 1.補聴処理及び補聴効果:振幅圧縮処理の問題点である音質劣化を改善するための合成圧縮フィルタ手法を提案した.本手法は,スペクトル圧縮を波形レベルで行うもので,その圧縮効果について,波形・スペクトルにおいて確認した.次に,実時間処理のためのディジタル補聴器を試作して,感音性難聴者による音節明瞭度及び音質評価実験を実施した.その結果,従来の多帯域圧縮に比べて良好な結果が得られた。 2.音声特徴抽出処理の検討:音韻情報を聴覚以外の感覚を通して伝達するためのスペクトル正規化とその母音ベクトル表現、更にスペクトル形状からの特徴抽出法を提案した.振動触覚呈示装置を試作して,多数話者の母音認識実験によりその効果が確認された.また,連続音声への拡張として不可欠な特徴要素の有効性を視覚パタンを用いた識別実験により示した. 3.韻律情報とその電気触覚イメージの検討:韻律情報の電気触覚刺激方式として,単語アクセント型の識別実験により,ピッチから電流パルスレートへの適切な変換及び音声強度の付加により聴覚と同様の韻律イメージを伝達できる可能性を示した.また,波形次元での実時間ピッチ抽出法を提案し,音声強度との融合により,良好なピッチパルス列に変換できることを示した. 4.音声特徴抽出装置の試作:音声の音韻及び韻律情報を抽出するための実時間音声特徴抽出装置を試作し、上記の母音ベクトル,分節特徴及び韻律特徴の実時間抽出例を示した. 本研究では,聴覚や触覚それぞれでの音声受容の検討が主であり,それらの併用形態及びその効果については実験的に示すまでには至らなかった.これらの諸手法並びに多種感覚の効果的併用に関しては,本研究で得られた知見や提案した処理手法,パタン変換及び実時間処理装置をもとに,様々な組み合わせにおける音声受容実験を通して,その体系化を図っていく予定である.
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