研究概要 |
本研究では,積分器を基本とした能動RCフィルタを自動合成するシステムの実現を目的とした.また,フィルタの自動合成システムの実現を容易にするために,積分器の他に加算器や定数倍器を基本構成要素として加え,それらの非理想成分の影響について検討を行った.フィルタを構成する場合,特に問題となる基本構成要素の非理想成分として基本構成要素の入出力抵抗の影響が挙げられる.基本構成要素の入出力抵抗の影響を補償することは従来極めて困難であったが,我々は,この問題について検討を加え,以下の知見を得た. 1.基本構成要素を相互接続した際に入出力抵抗の影響は接続間に減衰器が挿入されたことと等価である. 2.どの基本構成要素間に挿入された減衰器においても,いずれかの積分器の前後へ移動させることができる. 3.2の結果,基本構成要素の入出力抵抗の影響は積分器のユニティゲイン周波数の変化と見なすことができる. さらに,能動RCフィルタをモノリシック集積回路上で実現する場合,フィルタの遮断周波数等をPLL等により自動調整することが一般的であるので,フィルタの遮断周波数等の変化は許容することとした.この結果,積分器のユニティゲイン周波数の変化を全て均一にすることができれば,基本構成要素の入出力抵抗の影響はフィルタの遮断周波数等の変化となり,この変化はPLLで自動調整することができることとなる.そこで我々は,フィルタに適当な基本構成要素を新たに付加することにより積分器のユニティゲイン周波数の変化を均一にするアルゴリズムを開発し,入出力抵抗の補償に成功した.このアルゴリズムは極めて簡単であり,容易に計算機上に実現することができ,このアルゴリズムを用いれば初心者でも容易にモノリシックフィルタを実現することができ,目的をほぼ達成した.また,提案の補償アルゴリズムでは,余分な基本構成要素が増え,モノリシック集積回路上で実現した場合,チップ面積が増大することは避けられないものの,基本構成要素の入出力抵抗の影響を完全に補償することができるため,基本構成要素に流れるバイアス電流を極めて小さくすることができ,結果として従来の手法よりも低消費電力でフィルタを実現することができた.
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