本研究において当初計画したことは、近代建築史研究における文化圏ごとの研究を通覧することから、一般的な近代化の特性を抽出することであった。そのために、文献資料をつうじての調査をおこなうとともに、他の研究者からのヒアリングのための勉強会をおこなった。こうした作業は、それだけで近代建築史の比較研究のための方法をみいだしうるものではないが、日本固有の近代建築史をこえて、東欧諸国および北欧やスペイン、スコットランド等の近代建築に共通して現われる民族主義的な自覚と、そうした自らの文化的伝統に新しい表現をあたえようとする試みを、横断的に捉える可能性は十分に認識された。 具体的には、建築表現と文化的伝統との接点を、建物が建てられる場所あるいは土地の性格のなかにもとめようとする方法がうかびあがった。近代化の過程はあらゆる文化的価値尺度を均質なものにしてゆくと、これまでしばしば批判的に指摘されてきたが、実際には土地の固有性や場所性は、建築表現や開発事業の性格のなかに継承されうけつがれてゆくことが多い。これは文化圏の違いをこえて、近代化の中において残るものと変質するものとが、どのような位相をもつものであるかを示唆してくれているように思われる。近代化と各国の固有の文化的アイデンティティーの継承性の点に着目した比較文化史的な建築史の方法の可能性は、確かめられたと考えられる。 本年度の成果は方法的検討にとどまる部分が多かったが、個別的な研究の機会ごとに、土地性や場所性に着目した近代化研究において、本研究の論点に基づいた論旨を展開することが、できた。
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