研究概要 |
亀裂先端の局所応力状態は,その近傍に存在する転位等の弾性的特異点によって,著しく変化する.申請者は,この理論予測に基づき,亀裂先端から生成された転位群が,その近傍の応力集中を抑制するいわゆる“転位遮蔽効果"について,九州大学超高圧電子顕微鏡室の超高圧電顕JEM1000を用い,観測を行った.用いた試片はMgO単結晶微小試片で,これにビッカース圧子により,微小クラックを導入し,その先端近傍の静的な観察,並びに引張りホルダによる動的その場観察を行った.また,クラック先端の局所応力場について,歪コントラストの動力学的取扱いに基づく像シミュレーション(九大超高圧電顕室の友清らの方法に基づく)を,九州大学大型計算機センタにおいて行った. まず,超高圧電顕の静的観察における傾斜実験によって,クラックならびにその先端近傍の転位分布に2つの特徴的タイプの存在することが明らかとなった.その第1は,クラック面が{110}面で,その先端より前方45度方向に,{110}面上に沿って転位列が生成されていた.それらの転位のバーガーズベクトルは膜面に立った<110>方向で,ほぼラセン転位であった.第2のタイプは,クラック面が{100}面で,その先端よりそのまま前方に,{110}上に沿って転位列が生成されていた.特にこの場合,交差する2つの{110}面に分布するジグザグ状の転位分布が観察された.傾斜実験によりこれらの転位のバーガーズベクトルも<110>方向でラセン的性格の強い転位が低エネルギ転位構造とったものであることが明らかとなった.これら転位分布観察結果をもとに期待される遮蔽効果を考察中である.また,動的観察によって,室温のMgO中転位が集団で運動していく様相をビデオ録画できた.さらに,動力学的解析による像シミュレーションによっては,クラック先端の応力集中に対応した電子顕微鏡歪コントラストのパターンを明らかにできた.現在,上記の観察結果との対応を計りつつあるところである. 以上,本研究では,MgO単結晶クラック先端近傍の透過電顕観察を中心として,クラック先端から生成された転位の分布ならびにその性格を決定し,その遮蔽効果への寄与を明らかにした.
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