研究概要 |
12-タングストリン酸銀(Ag_3PW_<12>O_<40>,AgTP)の酸性プロトンは、銀イオンが水素によって還元されることによって発現する。部分的に還元したAgTPの固体酸触媒としての活性は水素の共存によって、大きく増大する。例えば、ヘキサンの異性化反応を150℃で行うと、活性は12-タングストリン酸に比べ約5倍高い。このとき水素の効果は可逆的であった。即ち、系内の水素を取り除くと活性は全く消失し、水素を再び導入することによって活性は元の活性に回復する。このことは、水素が共存している時にだけ発現している活性なプロトンが存在していることを示している。 2,3-ジメチル-1-ブテンの異性化反応でも、水素効果は可逆的であった。ヘキサンの異性化反応の場合と異なる点は、水素を取り除くと活性は低下するもの消失しない。このことは部分的に還元したAgTPには、水素の圧力の影響を受けるプロトンと、影響を受けないプロトンの二種類が発現していることを示している。 ^1H MAS NMRスペクトル測定によって、部分的に還元したAgTPのプロトンの性質を調べた。酸性プロトンに起因するピークは、6.4ppmと9.3ppmに観測された。このうち6.4ppmのプロトンの量は水素の圧力に依存した。これに対して、9.3ppmのプロトンの量は水素の圧力には無関係であった。こうした実験結果は、6.4ppmのプロトンが水素共存下で発現していることを示している。即ち、水素の可逆的な変化は6.4ppmのプロトンによって引き起こされる。このことから、6.4ppmのプロトンは活性なプロトンであり、ヘキサンの異性化反応に活性を示す。9.3ppmのプロトンはこの反応に活性を示さないと結論した。一方、2,3-ヂメチル-1-ブテンの異性化反応には、6.4ppmと9.3ppmの両者のプロトンが関与していることが明らかとなった。
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