研究概要 |
共役な酸化還元対からなる電位緩衝液の流れを用いる「フロー電位差分析」について、緩衝液への触媒的物質の探索・共存により試料との反応における酸化還元電位の異なる反応中間体を生成・検出し、フロー電位差分析の高感度化並びに酸化還元電極の特性とを検討した。以下、研究実績を報告する。 塩素化酸素酸イオン(Clo^-,Clo_2^-,Clo_3^-),Cr(VI),H_2O_2およびN_2H_4の酸化還元性成分を分析対象とした。硫酸酸性の鉄(III)-鉄(II)系電位緩衝液を用いて、上記の試料と混合・反応させると緩衝液中のFe^<2+>は(N_2H_4を除く)酸化され、反応後の平衡電位より分析が可能であった。しかし、塩素化酸素酸イオンの分析には緩衝液に塩化物イオン、Cr(VI)およびH_2O_2には、臭化物イオンを触媒物質として共存させると、過渡的電位変化に著しい増大現象が正電位側に認められ、これを検出に利用し、分析の高感度化を図った。Clo^-,Clo_2^-の場合、分析感度は平衡電位に比べて700〜800倍大、検出濃度は5_X10^<-8>Mまで達した。Clo_3^-の場合、反応速度が遅く、感度は硫酸濃度に依存し、反応速度差を利用したClo_3^-とClo^-との混合溶液中の同時定量法を可能にした。Cr(VI)およびH_2O_2の場合、10^<-7>Mレベルの定量を可能とし、平衡電位に比べて60〜70倍の高感度を示した。本法を海水中の排水基準濃度レベルのCr(VI)、又は雨水中のH_2O_2の分析に応用し、良好な回収率の結果を得た。後者の場合、電位変化の増大現象については、臭化物イオンの酸化による生成した臭素(反応中間体)が起因し、その酸化反応過程には、臭化物イオンと試料との反応を緩衝液中の鉄(II)イオンの誘導によるクロム中間体(Cr(V)あるいはOH・遊離基の物質が関与していることを吸収スペクトルおよびガス分析法より考察した。とくに、H_2O_2の場合、モリブデン酸イオンの添加は反応促進に寄与した。N_2H_4の場合、硫酸酸性のCe(IV)-Ce(III)系電位緩衝液を用いると、電位差法では特異的な極大をもつ電位変化を負電位側に生じることを見いだし、吸光光度法に比べて200倍程高感度な10^<-7>Mレベルの定量ができた。本法をボイラー水の応用に試みた。酸化還元電極(白金、金あるいはグラシーカーボン)検出器によって上記の電位の変化量が異なり、金電極が最も大きい値を得た。そこで、これら電極を硫酸酸性の臭化物イオン溶液を用いてサイクリックボルタンメトリ法で調べた結果、金電極では他の電極とは異なった還元波の現象が認められた。
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